銃の装填音が、仲間の真っ赤な肢体が転がる地に響く。

｢……｣

銃を両手で持って、敵に標準を合わせる。
微かに震える手を軍服の袖を伸ばして仕舞い隠す。
早く撃たなければ――。

｢……ﾌｪﾘちゃん｣
｢!?……ｷﾞﾙﾍﾞﾙﾄ?｣
｢装填した銃はこう……持って、狙いは左胸か眉間｣
｢……う、うん｣

――撃たなければ自分が撃た(やら)れる。
それでも手の震えが止まらない。
目で視える触感(じょうけい)と、精神(こころ)が感じている感覚(じょうけい)は虚しくも同格的符号(いこーる)で結べるものではない。

｢……下ろせ｣
｢え……?｣
｢ﾌｪﾘちゃんは歌でも歌って、笑っててくれ｣
｢!!……ｷﾞﾙﾍﾞﾙﾄ、俺はっ｣
｢こう言う血生臭いことは、俺とｳﾞｪｽﾄに任せな｣
｢……ごめん｣
｢気にすんなよ。ﾌｪﾘちゃんにこんなものは似合わねぇよ｣
｢……｣
｢行くぞｳﾞｪｽﾄ、安全装置外しとけ｣

嗚呼、この世界は自分には似合わない。
何処に逃げても、逃げても……目の前に広がるはただただ血に溺れる赫い世界。

小鳥の囀りと麗しい旋律に合わせて流れるように聴こえる声色が響く、あの美しい花々に囲まれ、愛しい人が自分の横にいるあの世界とは面影さえ見つからない。
その戦乱(なか)で生きる国(もの)にとって、他国(そと)が幸せに見えるのは致し方無いこと。
嗚呼、あの頃には戻れなくてもせめてもあの頃のように……。

『良いかﾌｪﾘｼｱ、剣はこう構えるんだ』
『む、難しいよぉ』
『いざとなったら守れるのは自分なんだぞ!?』
『……その時は神聖ﾛｰﾏが守ってね』
『なっ///い、言われなくてもそうするさ……』
『本当?ありがとう』

きっと何も知らずに、<閉ざされた世界>施錠の解けぬ鳥籠の中で“国”としての栄華を誇る方が幸せなのかもしれない。
それでも欲望を果たす為、自ら鳥籠の檻に手をかけ飛び立とうとする――今まで自分が犯してきた罪に対する罰と言う足枷に繋がれたことにすら気付くこともなく。

もし鎖が切れたとして、そしてそれが終焉に向かう世界(そら)だとしても――。
遥か彼方まで澄み渡る大空に、その短い翼を広げる。
何時の時代も幸福(しあわせ)なんてものは悍しい夢幻(まぼろし)に過ぎない。

嗚呼、それなのに誰も“それ”を肯定出来やしない、否定することも然り。

｢……神聖、ﾛｰﾏ｣

小さく呟いて、安全装置を外してから装填するまでの僅かな時間を目を閉じて装填音を聴いた。

｢もう大丈夫。ｷﾞﾙﾍﾞﾙﾄ、俺が後ろは援護するよ｣
｢無理すんなよ?｣
｢うん、ありがとう｣

いつ死んでも良い、彼に会えるのがそうするしか無いのなら。
きっと笑って迎えてくれる、よく頑張ったなって。
でもまだ“こっち”には見たいものも、やりたいものも多すぎるから、まだ死ねない。
ならば自分は――。

｢ﾊﾞｲﾊﾞｲ、名も知らない兵隊さん……Arrivederci.｣

銃の発泡音が、敵の真っ赤な肢体が転がる地に響いた。